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被写罪 初版

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被写罪(ひしゃざい)とは、現行の児童ポルノ法において、被写体となった児童が製造罪や提供罪に問われ得ることをいう。*1

概要

現行の児童ポルノ法においては、児童が他人から求められた訳ではなく自らの意思で、自らが被写体となった児童ポルノを製造して提供した場合には、提供罪や提供目的製造罪が成立する可能性が指摘されている。他人から求められた場合であっても、児童の側に抗拒不能などが認められない場合には、児童が幇助犯又は被教唆による正犯に位置付けられる可能性も指摘されている。*2

通常、個人的法益する罪においては、行為者自身が被害者となるような自損的行為については、法益の処分が認められるため、犯罪は成立しない。児童ポルノ法が立法の趣旨に則して個人としての児童の権利を擁護する法律として設計されているならば、被写体となった児童が罪に問われることはない。

ところが、児童ポルノ法第2条第2項第3項児童ポルノの定義)第2号及び第3号は、児童ポルノを「性欲を興奮させ又は刺激するもの」として定義し、児童ポルノ提供罪を“性欲幇助罪”として位置付けている。そのため、被写体となった児童被害者として位置付けられておらず、当該児童による法益処分が成立しない。

また、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という構成要件は刺激の対象者を特に限定していないため、被写体となった児童とは無関係な“善良な普通人”を仮構して適用されるため、被写体となった児童に害がない場合であっても構成要件該当性が阻却されない。仮に被写体となった児童に限定されたとしても、児童が“自己の性的好奇心を満たす目的”で社会に害を及ぼす画像を流通させた罪(傾向犯*3)として解釈することが可能であり、ここでも被写体となった児童による法益処分が成立しない。

このように、現行の児童ポルノ法は、児童の何らかの権利(個人的法益)を擁護するための法律として制定された経緯*4に反して、その法文が“性欲を興奮させ又は刺激する児童の姿態から社会的法益を保護する法律になっている。言い換えると、現行法は“児童が他人の性欲を興奮させ又は刺激するような姿態をとって表現することを規制する法律あり、児童の有する「表現の自由」を罰則付きで制限する法律である。その意味において、現行の児童ポルノ法を「表現の自由」と対立する法律として捉えること*5ことは正しい。

なお、社会的法益説は、流通を目的としない“単純所持”や児童を被写体としない“準児童ポルノ”の規制を求める勢力が法文に反して主張したものと誤解されることが多いが*6、上述のように法文から必然的に導き出されたものである。規制の拡大を求める勢力は、寧ろ児童の何を守るのかを具体化させないまま個人的法益を殊更に主張し、そこに社会的法益を混入させる傾向がある。実際に日本ユニセフ協会は、個人的法益の内容を抽象化して社会的法益との区別を曖昧にしてはいるものの、規制を拡大する根拠は個人的法益の保護であると主張している*7


なお、2004年の法改正により、姿態をとらせる側ととらされる側に分かれていて児童が共犯になりにくい“姿態をとらせて製造”罪(法第7条第3項)が導入された一方で、児童ポルノ流通罪が、受け取る側の目的を想定しない「頒布罪」から受け取る側の有する目的に役立てることを想定する「提供罪」に変更され、従来よりも“性欲幇助罪”としての性格が強まった。

第15条との関係

法第15条(心身に有害な影響を受けた児童の保護)第1項には「児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し...保護のための措置を適切に講ずるものとする。」と規定されている。この規定は、一見すると児童ポルノに描写された児童を被害者として位置付けるものであり、被写罪とは対立するように思われる。

しかし、児童が反社会的な行動に至ること(非行)を「有害な影響」と位置付けることで「保護」に「補導」の意味を含ませることができるため、被写罪と対立させずに解釈することも不可能ではない。第15条の存在が必ずしも個人的法益の保護を担保してるわけではない。

推奨される法改正

個人的法益の保護としての児童ポルノ規制において撮影ではなく流通を処罰する根拠は、撮影時の“姿態をとらせる”虐待行為による害が継続していることや「虐待者に資金を提供し、それを援助する行為*8」であることではなく、流通によって新たに外部的名誉や名誉感情が侵害されることに求めるべきである。従って、被写罪を解消するために推奨される法改正は、法第2条第2項第3項児童ポルノの定義)第2号及び第3号中の「性欲を興奮させ又は刺激するもの」と規定されている部分を「当該児童の性的羞恥心を害するもの」に改めることである。

被写体となった者に帰属する場合の「性的羞恥心」は外部的名誉や名誉感情に近い概念となる。従って、「当該児童の性的羞恥心を害するもの」として定義された場合の児童ポルノに関する罪は、名誉毀損罪や侮辱罪からの類推で再構成されることになる。

自己の名誉を毀損するような事実を摘示した者に名誉毀損罪が成立しないのと同様に、自己の性的羞恥心を害する画像を流通させた児童に罪は成立しない。名誉毀損罪や侮辱罪の保護法益は、純粋な個人的法益であり、行為者自身が被害者となるような自損的行為については、法益の処分が認められる。

単純所持や準児童ポルノの規制の是非も、名誉毀損罪や侮辱罪からの類推で自ずと決まる。名誉毀損罪や侮辱罪は、実在する人物の外部的名誉や名誉感情を害する事実や評価を広めることを以て法益侵害とするものであり、知ること又は知っていることを以て法益侵害とするものではない*9


児童ポルノ流通罪については、受け取る側の目的に役立てることを想定する「提供罪」から、受け取る側の目的を想定しない「譲渡罪」や「貸与罪」、「送信罪」などに改めることが推奨される。

自己被害化

自己被害化(じこひがいか)とは、児童ポルノ法において、児童ポルノの被写体となった児童が自己の行為によって害を被ることをいう。被写罪に類似する概念ではあるものの、被写体となった児童の行為が提供罪や提供目的製造罪に該当し得ることを捨象している点において、被写罪と区別される*10

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