Quietworksの改め文工房

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「有害」情報対策と民法 - 有害情報と親権

先日、d:id:mkusunok:20080419:draftにて、以下のようにコメントしました。

Quietworks 2008/04/20 19:08
「有害」情報の規制については、まず保護法益、受益者、規制の主体・構造等を整理する必要があります。
これまでの規制案から読み取ることができるのは、
(1)保護法益:青少年の健全性に対する期待
(2)受益者:社会(抽象的であるため、実質的には国・親世代など)
(3)規制の主体・構造:行政・業界団体等が主体。児童・保護者は個々の事業者と共に規制を受ける側
という構図です。しかし、本当に必要な規制は、
(1)保護法益:生命、身体、自由等の安全
(2)受益者:児童(具体的な個人)
(3)規制の主体・構造:原則として保護者が主体。行政・業界団体等は児童・保護者を支援する側
という構図に基づくものであり、これを踏まえた上で制度を設計する必要があるのではないかと考えます。

今回は、上記の構図を踏まえて、「有害」情報対策のあり方について考えてみます。なお、法律についての知識は、ある程度は心得ているつもりでありますが、専門職ではないため必ずしも正確ではありません。予めご了承ください。

民法との関係

まず、この問題について考える際に、民法のとの関係について念頭に置く必要があるように思います。これまでの有害情報対策案においては、規制の権限は行政権であったため、民法との関係についてはスルーすることができました。しかし、保護者を主体とする有害情報対策においては、民法との関係をスルーすることができません。規制の権限は原則として保護者が有することになり、その権限の源は民法中の「親権の効力」にあるからです。

保護者の権限と責務

行政機関やその指定を受けた団体では、個々の児童の判断能力には対応することができません。その結果、画一的な基準により判断されることとなり、ある児童にとっとは有害な情報が擦り抜け、ある児童にとっては有益な情報が遮断されるといったことも起こり得ます*1。有害情報対策における受益者であるはずの児童が、行政の想定する範囲から外れてしまうだけで、不利益を被ることになります。

従って、有害情報対策における受益者を児童とした場合、規制の権限は個々の児童の判断能力を最もよく知っている保護者に与え、保護者の判断により行使させることが、より効果的であると考えます。具体的には、児童に対し通信を制限することができる旨を法律に明記し、親権の一部として位置づけます*2。その上で、フィルタリングなどの規制の手段は、保護者が個々の児童の能力に応じて選択することとします。事業者から供給されるフィルタリングメニューをそのまま利用しても、情報を個々に吟味してから児童に与えてもよいでしょう。児童の判断能力が十分である場合においては、その判断に任せることも選択肢の一つです。

保護者に権限を与えた場合、所有権のように自らの利益のために濫用されることが弊害として懸念されます。また、その行使を怠ることにより児童が不利益を被る可能性も、もちろん否定できません。そのため、児童の生命、身体、自由などに対する危険があると認められるとき(又は児童が第三者に対して損害を加えるおそれがあるとき)に限る旨(超えた場合は濫用となる。)を明記した上で、親権が権利(自己の利益のために行使される。)ではなく権限(他者の利益のために行使される。)である旨を宣言します。また、保護者はその権限の行使について、児童に対して責任を負うものとします。その上で、濫用等があった場合は処分の対象とします。

国及び事業者の責務

保護者を規制の主体とするとしても、国や地方自治体、事業者が何もしなくてもよいという訳ではありません。児童・保護者による主体的な取り組みの支援や前述の権限の濫用等を防止するために必要な対策を講ずることが責務となります。具体的には、国・地方自治体は民間の協力を得ながら保護者による取り組みに役立つ情報を収集・提供、事業者は国などの支援を得ながらフィルタリングなどの技術的手段を開発・提供することが主な役割となります。ただし、有害性の判断基準やフィルタリングの利用を児童・保護者に対し一律に義務づけるようなことは避けるべきでしょう*3

更新履歴

  • 前の版: なし
  • 2008-04-22 21:22 「有害」情報対策と民法 - 有害情報と親権

*1:後者の場合は、有益な情報が遮断されていること自体に気づかない可能性があります。

*2:具体的には、民法第820条から第823条までの間に、その旨の規定を加える形になると思います。

*3:ただし、児童相談所は強制的にホワイトリストに登録します。これは、保護者による権限の濫用から児童を守るために必要です。